新会社法で株主の権利はどのように変更されたのか?
決算期と中間決算期の年2回しか行なうことができなかった配当ですが、新会社法では株主に対する利益の還元方法の多様化・柔軟化を図るため、株主総会の普通決議でいつでも行えるようになりました。分配可能額=剰余金-自己株式の帳簿価額-その他(前期末以降に処分した自己株式の対価ほか)+臨時決算書類の利益など、となっていますので、賃借対照表にある留保利益まで配当を行なうことができます。
さらに、期中の特定の日までの損益計算書と賃借対照表を作成する「臨時決算制度」が導入されましたので、臨時決算で計算された分配可能額に従って配当することが可能になりました。
この制度を利用すれば、四半期決算を行い、それに基づいて配当を行う四半期決算配当が可能になりますし、月次決算を行えば、月次での配当を行うこともできます。つまり、新会社法では配当はいつでも何回でも行なうことができるのです。
基準日後に株主になった者でも議決権行使ができます
株主の権利を行使する者を確定するために定められる日付のことを「基準日」といいます。つまり、会社が定めた基準日に株主名簿に記載されている株主、質権者が株主、質権者として扱われるのです。
従来、基準日の後に株主になった者の議決権に関する規定はありませんでした。しかしながら、基準日後における組織再編で新たに株主になった者が、取締役の選任などについて株主総会で議決権を行使できない、などの意見がありました。
そこで、新会社法では議決権を行使することのできる株主を定めるために基準日を設定していても、株式会社の判断で、基準日後に株主になった者にも議決権を行使させることをできるようにしました。
また、従来は営業年度の途中で発行された新株式の配当に関しては、日割計算で行われていましたが、利益配当額は必ずしも営業年度の利益が基準となるわけではないという意見や事務手続きに手間がかかるなどの意見を受け、新会社法では営業年度中に発行された新株式の配当については、以前から存在している株式と同じ金額の配当を行うことになりました。
株主には個別に重要事項を通知することが必要です
従来、一定事項に関する適正な情報を提供するため、株主に対する「通知」や官報、日刊新聞などによる「公告」を行わなければならない場合、公告さえすれば、個別の株主に通知する必要はありませんでした。
しかしながら、新会社法では、株主に対する情報提供を徹底させる必要があるという観点から、株式譲渡制限会社に対して、一定の事項に関しては「通知」を義務付けています。具体的には、「取締役の一部免除」、「代表訴訟」、「簡易組織再編」、「自己株式取得」に関する事項は、公告を行ったとしても、株主に個別の通知をしなければなりません。
会社としても、株主が少ない場合には、公告を行わずに最初から通知だけを行うことにより、公告費用をゼロに抑えることができるというメリットがあります。
譲渡制限会社の新株発行無効の訴えの提訴期間が1年に延長
「発行株式総数を超える株式の発行」、「定款に定められていない種類の株式の発行」、「株式譲渡制限会社で株主総会決議を欠いた株式の発行」、「株主への募集事項の通知・告知を欠いた発行」など、法令や定款に違反する株式の発行が行われた場合には、その発効は法的に無効とされます。このような新株発行の無効を裁判で主張する制度を「新株発行無効の訴え」といいます。
しかし、既に発行済みの株式が無効になると、その株主が議決権をこうした株主総会決議なども覆されることになり、会社の利害関係者に大きな影響を及ぼすことになります。そこで、法律では訴えを起こせる者(提訴権者)を株主、取締役、監査役などの一定のものに限り、提訴機関も「新株発行の日から6ヶ月」と短くしてあります。さらに、この6ヶ月が過ぎない限り、審理を進めることは認められていませんでした。
新会社法では、株式譲渡制限会社の場合、新株が市場で流通せず、提訴期間を延長しても法的安定性が大きく損なわれることがないという観点から、新株発行無効の訴えの提訴期間が1年に延長されました。また、審理の迅速化を図るため、提訴期間中であっても、審理を開始することができるようになりました。
なお、公開会社の場合の提訴期間は従来どおりの6ヶ月となっています。ただし、6ヶ月を過ぎなくても、審理を開始することができます。
株主代表訴訟に制限が設けられました
取締役、監査役、会計監査人、会計参与などの役員等が会社に損害を生じさせた場合、会社はこれらの役員などを訴えて責任を追及することになります。しかし、実際は、身内同士のような関係であるために積極的な責任追及を行わないケースが少なくありません。そこで、株主が会社に変わって訴訟を起こして、役員などの責任を追及することが認められています。これを「株主代表訴訟」といいます。
提訴できるのは原則として、6ヶ月以上継続して株式を保有している株主です。また、いきなり訴えを起こすことは認められておらず、まず役員などに対する責任追及などの訴えを提起するように会社に求めなければなりません。そして、訴えの提起を求めた日から、60日経って会社が訴えを起こさない場合に始めて、株主代表訴訟が認められるようになっています。
従来、この株主代表訴訟には特に制限が設けられていなかったため、特定の株主が、自己の不正な利益のために訴訟権利を乱用し、訴訟が頻発する可能性が指摘されていました。そこで新会社法では、株主が自分や第三者の不正な利益を図ること、または会社に損害を与える目的を持っている場合には、株主代表訴訟は起こせないという制限が設けられました。
また、株主代表訴訟の最中にその会社が持ち株会社化を図り、訴えられている会社の完全子会社になると、株主は原告適格を失ってしまうために、会社は訴訟を逃れることも可能でした。新会社法では、このような事態を防ぐために、子会社に対しても株主代表訴訟の権利が認められるようになっています。
株主名簿等の閲覧請求を拒絶できます
従来から株主名簿、社債原簿、新株予約権原簿の閲覧や謄写の請求が権利の乱用に該当するときには、その請求を拒絶できるとされてきましたが、明確な規定は設けられていませんでした。
新会社法では、株主名簿や社債原簿等の閲覧、謄写請求があった場合に、その目的が株主の権利行使と関係ない場合や、その情報を他人に売却するといったものであったような場合、請求者が会社と競業する者である場合には、会社はその請求を拒絶できると明確に規定しています。
これは、個人情報の保護を徹底するための規定の一つととらえることもできます。平成17年4月より個人情報保護法が事業に対しても適用されるようになったことによって、各企業は個人情報の管理に細心の注意を払うことが求められているためです。