内部統制の転職・求人ガイド > 日本版SOX法 > 日本版SOX法の目的と対象となる企業

日本版SOX法の目的と対象となる企業

2006年6月、投資家の保護を目的として、金融商品取引法が制定されました。この法律は、従来の証券取引法を大幅に改正した形でつくられましたが、その大きな柱として、1.銀行、証券、保険など、縦割り行政で分断されていた金融商品・サービスの販売に関する規制に横断的なルールを設ける、2.四半期開示の義務付け、公開買い付け制度(TOB)や大量保有報告制度の見直しといった企業情報の開示制度の充実を図る、の2つがあげられます。

正確な情報を投資家に提供

金融商品取引法では、2の企業情報の開示の充実の一環として、アメリカのSOX法を手本として、新たに企業の内部統制の監査に関する制度が導入されました。この新たに導入された内部統制の監査に関する制度が、俗に「日本版SOX法」と呼ばれているものです。企業の信頼性を確保する為に、財務報告内容に関する企業活動を、内部統制によって適正化・効率化することを経営者の義務として課しています。対象となる企業は全ての上場企業で、連結対象となる子会社も含まれます。

アメリカの元祖SOX法が導入は、エネルギー会社大手の「エンロン」が株価の上昇を目的に、同社を担当していた世界最大規模の会計事務所「アーサー・アンダーセン」の公認会計士と共謀して粉飾決算を行っていたことをきっかけとしていますが、日本の場合は、西武鉄道の有価証券報告書の虚偽記載、カネボウの粉飾決算、ライブドアの粉飾決算などアメリカと同様の事件が続発し、多くの投資家が財務報告内容に疑念を抱くようになったことに端を発しています。

公開企業の場合、企業の作成した財務諸表が適正であるかどうかは、公認会計士または監査法人によって監査が行われ検証されますが、公認会計士または監査法人の独立性や監査業務の管理体制、または時間的な制約等から、全ての取引に対して十分な検証が行なわれてるとは限らないという問題が浮かび上がってきました。その結果、公表された財務情報だけでなく、公表に至るまでの企業内の財務報告プロセスにまで関心が及んで来たのです。

正確な財務報告は証券市場の健全化にとって必要不可欠であることから、金融庁が2004年11月に「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応」を公表し、企業に対して株主の状況に関する開示内容の自主的点検を要請するなど、「日本版SOX法」に向けた論議が活発化されたのです。

日本版SOX法は、財務諸表の信頼性の確保を目的としています

日本版SOX法(金融商品取引法に含む)は、証券市場における情報開示の信頼性を高め、投資家が自分の投資した会社やこれから投資しようとしている会社の内部統制がきちんとしているかを判断できるようにするシステム作りを目的としています。そのため、内部統制のなかの財務報告に関する制度に焦点が絞られているのです。日本版SOX法で求められるのは以下の3点です。

経営者による評価
上場会社の経営者に対して、自分たちが構築した内部統制が有効に運用されているか、機能しているかを自分たちで評価するように求めています。そして経営者は、その評価結果を「内部統制報告書」にまとめなければなりません。

外部監査人による評価
次に、会社から独立した外部の監査法人または公認会計士(以下、外部監査人)が、経営者による評価が適切に行われているかについて監査を行ないます。そして、その結果を「内部統制監査報告書」にまとめて、意見表明しなければなりません。

投資家への情報開示
経営者は、この「内部統制監査報告書」を毎年提出が義務付けられている有価証券報告書とセットで提出し、投資家に開示することが求められています。

このように、まず自分たちで評価して、その結果について外部監査人にみてもらい、監査済みの内部統制報告書を投資家に開示するという3つのステップを経ることにより、投資家は投資先を選別できるようになるのです。金融商品取引法は、日本版SOX法を企業情報の開示制度を充実させるための一環として位置づけているのです。

対象となる企業

2008年4月開始事業年度から適用された日本版SOX法(金融商品取引法に含む)は、東証1部からジャスダックに至るまですべての上場企業が対象となっており、2009年3月決算の企業から、経営者によって作成された「内部統制報告書」と外部監査人による「内部統制監査報告書」を財務諸表とセットにして提示、公開しなければなりません。この取り組みには罰則(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金)も規定されており、提示・公開を避ける方法は、上場廃止しかありません。

上場していない企業は、対象から外れますので、これらの報告書の提示、公開の義務はありません。しかし、上場企業の連結対象会社の場合は、親会社の経営者による「財務報告に係る内部統制の評価」の対象となることが考えられます。つまり、自主的な義務はないものの、親会社の内部統制の導入、整備の一環として導入、整備しなければならないのです。

また、2006年5月に施行された会社法でも、大会社(資本金が5億円以上または負債200億円以上の株式会社)を対象として、内部統制の構築が義務付けられています。

虚偽記載等を行った企業に対する法律上の罰則規定

全ての上場企業は、2009年3月期(2008年4月1日以降に開始する事業年度)より、内部統制報告書の提出が義務となりましたが、これを怠ったり、虚偽の記載があった場合、法律上の罰則も規程されています(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金)。

内部統制報告書の内容に重大な虚偽があったり、重要な事項が欠けていたりした場合は、それを知らずに有価証券を取得した投資家に対して、損害賠償を負うことになります。この損害賠償責任は、報告書を提出した時点の役員(取締役、執行役、監査役またはそれに準ずる者)と、監査証明を行なった公認会計士の双方が負うことになります。

このように企業の役員の責任はいっそう重くなりますし、公認会計士にも責任が問われることから、会計士からの厳しい要請も予想されています。

日本版SOX法の目的と対象となる企業:関連ページ

日本とアメリカにおけるSOX法の違い
本家本元のアメリカでは、日本に先駆けて2002年からSOX法が施行されていますが、内部統制の導入の際に莫大な費 […]
日本版SOX法の制定に影響を与えた国内外の不正会計事件
エンロン事件とは、世界最大手のエネルギー販売会社だったエンロンが経営不振に陥り、総額160億ドルを超える巨額の […]